新型コロナウイルス(novel coronavirus 2019; 2019-nCoV)による新型コロナウイルス感染症( COVID-19)の症例報告が英国医学雑誌New England Journal of Medicine(NEJM)に掲載されました。治療により回復した米国での初症例1例がNEJMに紹介されています。
この35歳男性患者では、抗ウイルス薬が奏功し回復しています。初診時には当該患者の初期症状は軽症で、咳と発熱の自覚があったものが、救急外来受診し入院、発病9日目で肺炎へと急性増悪しました。胸部X線検査で左肺下葉に肺炎所見が観察され、時を同じくしてパルスオキシメーターによる酸素飽和度も90%を切りました。酸素投与2Lが開始され、院内肺炎を疑いバンコマイシンとセフェピムの投与も開始されました。発病10日目には、両肺に浸潤影が認められる重症肺炎へとさらに増悪。
発病11日目(入院7日目)の夕方に、レムデシビル(開発中の新規ヌクレオチドアナログプロドラッグ)静注による治療を開始、バンコマイシンを中止、翌日にセフェピムを中止されました。敗血症マーカーであるプロカルシトニン値が連続的に陰性で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の鼻腔PCR検査は陰性でした。
その後、抗ウイルス薬レムデシビルの投与により、発病12日目に患者は解熱・回復した。2020年1月30日現在、患者は入院したままだそうです。彼は無熱で、咳を除いてすべての症状は消失しています。咳の重症度は低下しているようです。
新型コロナウイルス感染症では、経過途中で肺炎が急性増悪するようです。したがって発症後、早期に検査(PCR検査)・診断することが重要となります。
WHOによると、COVID-19の臨床症状を有する患者の致死率は1%程度と考えられています。臨床症状を呈さない不顕性患者を含めると、致死率は0.3%程度。しかしCOVID-19の感染性は高いようです。というのも基本再生産数が、COVID-19では2を超えているからです。インフルエンザと同じ感染症対策をしましょう。
(参考)
新型コロナウイルス感染症に対しする抗ウイルス薬としては次のような薬剤が検討されています。
・レムデシビル
レムデシビルは、ギリアド・サイエンシズ社が開発した抗ウイルス薬です。新規ヌクレオチドアナログのプロドラッグで、エボラ出血熱及びマールブルグウイルス感染症の治療薬として開発されました。後に、一本鎖RNAウイルス(ssRNA virus)に対して抗ウイルス活性を示すことが見出されました。
・ロピナビル
ロピナビルは、HIV感染症のHAART療法に用いられるプロテアーゼ阻害薬の1つです。
・リトナビル
リトナビルは、プロテアーゼ阻害薬の一つです。抗レトロウイルス効果があり、ヒト免疫不全ウイルスやC型肝炎ウイルス感染症の治療に使用されます。
・アビガン
アビガンは、富士フィルム富山化学株式会社が開発した抗インフルエンザウイルス薬(2014年承認)で、日本政府が200万人分を備蓄しています。アビガンの添付文書によると、「本剤は、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分な新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品である。」と記載されています。
(出典)
New England Journal of Medicine(NEJM)
(私訳)
症例報告
2020年1月19日35歳男性が、4日間の咳と発熱を自覚しそれを主訴として、ワシントン州スノホミッシュ郡の緊急治療クリニックを受診した。その診療所を受診すると、待合室で患者はマスクを装着された。約20分待った後、検査室に搬入され、医療提供者による診察を受けた。同氏は、中国の武漢に住む家族を訪問した後、1月15日にワシントン州に帰国したことを明らかにした。患者は、米国疾病管理予防センター(CDC)から中国での新規コロナウイルスアウトブレイクに関する健康警告を見て、自身の症状と最近の旅行から医療提供者の診察を受けることにしたと述べた。
高トリグリセリド血症の既往歴は別として、患者は他の点では健康な非喫煙者であった。身体診察では、患者が周囲の空気を呼吸している間、体温37.2℃、血圧134/87mm Hg、脈拍110回/分、呼吸数16回/分、酸素飽和度96%であった。肺聴診でラ音を認め、胸部X線検査を施行したところ、異常を認めないと報告された(図 1)。インフルエンザA型およびB型に対する迅速核酸増幅検査(NAAT)は陰性であった。鼻咽頭ぬぐい液標本を採取し、NAATによるウイルス性呼吸器病原体の検出のために送付した。この呼吸器病原体には、インフルエンザAおよびB、パラインフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス、ライノウイルス、アデノウイルス、ならびにヒトに疾患を引き起こすことが知られている4つの一般的なコロナウイルス株(HKU1、NL63、229E、およびOC43)を含む。検査した病原体すべて陰性であると48時間以内に報告された。
患者の渡航歴を考慮し、地方および州の保健局に直ちに通知した。ワシントン州保健局は、緊急医療臨床医とともにCDC緊急業務センターに通知した。患者は、華南海鮮卸売市場で時間を過ごしておらず、中国への旅行中に病人との接触が知られていないことを報告したが、CDCスタッフは、現在のCDCの「調査中の患者」の症例定義に基づいて、患者の2019-nCoV検査の必要性に同意した。検体標本をCDCガイダンスに従って採取し、血清および鼻咽頭および口腔咽頭のぬぐい液標本を含めた。検体採取後、地域の保健部による能動的モニタリングをともなう自宅隔離となり、患者は退院した。
2020年1月20日、CDCは患者の鼻咽頭および口腔咽頭ぬぐい液がリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(rRT-PCR)法により2019-nCoV陽性であることを確認した。CDCの主題専門家、州および地方の保健当局、救急医療サービス、病院長とそのスタッフと連携して、患者は臨床観察のためにプロビデンス地域医療センターの空気感染隔離ユニットに入院した。ここには、接触、飛沫、空気感染予防策に関するCDCの勧告に従い、眼球の保護をした医療従事者がいる。
入院時、患者は持続性の乾性咳嗽と悪心・嘔吐の2日間の既往歴を報告し、息切れや胸痛はないと報告した。バイタルサインは正常範囲内であった。理学的検査で患者には、粘膜の乾燥が見られた。残りの検査は概して特記すべきことはなかった。入院後、患者は2リットルの生理食塩水と悪心に対するオンダンセトロンの投与を含む支持療法を受けた。
入院2~5日目(発病6~9日目)には、頻脈を伴う間歇性発熱の発現を除き、患者のバイタルサインはほぼ安定していた(図2)。患者は乾性咳嗽を継続して報告し、疲労感が出現した。入院2日目の午後、患者はゆるい排便をし、腹部不快感を訴えた。軟便の2回目のエピソードが一晩で報告された。この便の標本を、追加の呼吸器検体(鼻咽頭および口腔咽頭)および血清とともに、rRT-PCR検査のために採取した。便および呼吸器検体はいずれもrRT-PCR法で2019-nCoV陽性であることが後に判明したが、血清は陰性のままであった。
この間の治療は大部分が支持療法であった。症状管理のため、患者は必要に応じて、アセトアミノフェン650mgを4時間毎、イブプロフェン600mgを6時間毎からなる解熱療法を受けた。また、入院後最初の6日間にわたり、咳が続くためグアイフェネシン600mgと生理食塩水約6リットルを投与した。
患者隔離ユニットの性質は、最初は治療現場の臨床検査のみを許可した。入院3日目から全血球数と血清化学検査が利用可能であった。入院3日目と5日目(発病7日目と9日目)の検査結果は、白血球減少症、軽度の血小板減少症、クレアチンキナーゼ値の上昇を反映していた(表1)。さらに、肝機能検査測定値に変化がみられ、入院5日目にはアルカリホスファターゼ(68 U/L)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(105 U/L)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(77 U/L)、乳酸脱水素酵素(465 U/L)のいずれもが上昇した。患者が発熱を反復することから、4日目の血液培養結果を入手した。これらは現在まで増殖を示していなかった。
入院3日目(発病7日目)に撮影した胸部X線写真では、浸潤影や異常所見は認められなかったと報告された(図3)。しかし、入院5日目(発病9日目)の夜の2回目の胸部X線写真では、左肺下葉に肺炎の所見が認められた(図4)。これらのX線検査所見は、パルスオキシメトリーで測定した患者の酸素飽和度値が環境空気を呼吸している間に90%まで低下した、入院5日目の夕方に始まる呼吸状態の変化と一致した。入院6日目、患者に酸素吸入を開始し、鼻カニューレにより毎分2リットルで送達した。臨床像の変化と院内感染肺炎の懸念から、バンコマイシン(1750mg負荷投与後、8時間ごとに1gを静脈内投与)とセフェピム(8時間ごとに静脈内投与)による治療を開始した。
入院6日目(発病10日目)に、第4胸部X線写真で両肺基底部に線条陰影を認めた。これは異型肺炎に一致する所見(図5)で、聴診で両肺にラ音を認めた。胸部X線検査所見から酸素吸入開始の決定をしたが、患者の進行中の発熱、多数の部位での持続陽性の2019‐nCoV RNA、及びこの患者におけるX線での肺炎発症と一致する時期に重症肺炎3,4の発症があることの報告を考慮して、臨床医は治験中の抗ウイルス薬の追加使用を検討した。レムデシビル(開発中の新規ヌクレオチドアナログプロドラッグ)静注による治療が入院7日目の夕方に開始されたが、この点滴に関連する有害事象は認められなかった。入院7日目の夕方にバンコマイシンを中止し、翌日にセフェピムを中止したが、プロカルシトニン値が連続的に陰性で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の鼻腔PCR検査が陰性であった。
入院8日目(発病12日目)に、患者の臨床状態は改善した。酸素吸入を中止し、周囲の空気を呼吸している間、酸素飽和度値は94~96%に改善した。以前の両側下葉ラ音はもはや存在しなかった。食欲は改善し、間欠的な乾性咳そう、鼻漏以外は無症状であった。2020年1月30日現在、患者は入院したままである。彼は無熱性で、咳を除いてすべての症状は消失している。咳の重症度は低下している。
注)正しくは、原文を参照してくだいさい。図表については、NEJMのサイトにありますので、こちらを参照してください。
2015年のTEDトークで、あのビルゲイツ氏が全世界に出した警告のスピーチがあります。今回の新型コロナウイルス感染症を予測していたかのようです。
Comments