甲状腺はのどぼとけのすぐ下にある4cm程度の楕円形の臓器で、ちょうど蝶が羽を広げたような形をしており、体内の新陳代謝を活性化させるホルモンを作り出す臓器です。何らかの原因により、この甲状腺に炎症が生じる疾患が甲状腺炎です。経過により、急性、亜急、慢性甲状腺炎があります。亜急性甲状腺炎は男女比1:5~10で中年の女性に多い疾患です。慢性甲状腺炎は男女比1:10~20で思春期以降の女性に多く加齢とともに増加し、成人女性の約10%程度を占める頻度の高い疾患です。
原因
急性化膿性甲状腺炎は細菌または真菌感染によるまれな疾患で、起炎菌は黄色ぶどう球菌、連鎖球菌、嫌気性菌等があります。亜急性甲状腺炎はウイルス感染による甲状腺の炎症と考えられ、非化膿性、非自己免疫性であるという点で急性、慢性とは区別されます。慢性甲状腺炎は、甲状腺の細胞成分に対する自己抗体により、甲状腺で炎症を起こすための自己免疫疾患が多いでのすが、バセドー病や膠原病やリウマチなどの自己免疫疾患、甲状腺がん等の基礎疾患の合併症として生じることもあります。
症状
急性化膿性甲状腺炎は、甲状腺罹患部の圧痛と腫脹を認めます。皮膚の発赤と熱感、さらに局所膿瘍形成以外に発熱などの全身症状や咽頭痛を伴うことが多いです。亜急性甲状腺炎は上気道炎様の症状に続き、発熱、全身倦怠感と共に甲状腺が急に硬く腫れて頸部が痛みます。甲状腺の破壊により一過性の甲状腺中毒症状(多汗、頻脈、手指振戦等)が出現し3~6週持続した後、今度は一部の症例で機能低下症を経て回復します。慢性甲状腺炎の甲状腺腫は一般にびまん性で初期は比較的弾力性で柔らかいのですが次第に固くなります。痛みはありませんが、前頸部圧迫感や違和感があります。1~2割が甲状腺濾胞の破壊によって一過性の甲状腺機能亢進症状を呈することがありますが、その後は徐々に機能低下に陥ります。下垂体、副甲状腺、膵臓、副腎等他の内分泌臓器の自己免疫疾患を合併することもあります。
検査・診断
急性化膿性甲状腺炎は白血球やCRPや赤沈等の炎症マーカーの増加を認めます。甲状腺破壊が高度であれば甲状腺ホルモンは一過性に増加します。エコーは、種々のエコー輝度が混在した不均一かつ辺縁不整の腫瘤像を呈します。確定診断は炎症部を穿刺し、内容液の細菌培養とGram染色を行います。
亜急性甲状腺炎はCRP上昇、赤沈亢進が著明ですが、白血球は正常~軽度増加にとどまります。TSH低下、T3、T4の上昇、血中サイログロブリンの上昇を認めます。甲状腺関連の抗体は一般的に陰性です。エコーでは罹患部に一致して低エコー領域が認められます。細胞診による特徴的な多核巨細胞の検出が確定診断になります。慢性甲状腺炎は自己抗体であるマイクロソーム抗体やサイログロブリン抗体が90%以上で陽性になります。血中ガンマグロブリンの増加や赤沈亢進を認め、次第に甲状腺機能低下症の所見となります。エコーでは内部構造が不均一で低エコーレベルの甲状腺を示します。
上気道感染、無痛性甲状腺炎、甲状腺腫瘍内出血、甲状腺機能亢進症、慢性甲状腺炎の急性憎悪、甲状腺がん等が鑑別としてあげられます。
治療と予後
急性化膿性甲状腺炎は急性期には輸液や強力な抗生物質を投与し、全身管理を行います。切開排膿が必要な場合もあります。根治には下咽頭梨状窩瘻の外科的閉鎖術も必要です。亜急性甲状腺炎は軽症では消炎鎮痛剤のみでもいいですが、疼痛が強い場合にはステロイドホルモンを使用します。初回20~30mgで数日以内に改善し、以後はゆっくり漸減し2.5~5mg程度で1~2ヶ月投与して中止します。症状が消失し、検査数値が正常化すれば治癒したと判定します。慢性甲状腺炎は甲状腺機能低下例では甲状腺ホルモンの補充療法を行いますが、甲状腺機能が正常であれば年に1回の定期検査で経過観察を行います。ヨウ素の過剰摂取がある時にはヨウ素制限を指示します。
急性化膿性甲状腺炎は根治手術により完治します。亜急性甲状腺炎も予後は良好で通常数周~数か月で全治しますが、稀に再罹患があります。
引受査定のポイント
急性・亜急性の場合は、現症の場合は死亡保険・医療保険とも一旦延期としたほうがよいでしょう。既往症については、死亡保険、医療保険とも引受可としてよいでしょう。
慢性甲状腺炎の場合は、現症の場合は年数により、死亡保険は保険料割増などの条件付き~標準体、医療保険は部位不担保等の条件付~標準体での引受を考慮できるでしょう。既往症については、死亡保険、医療保険とも引受可としてよいでしょう。
本メルマガの内容については、配信日現在の医療情報、医療事情及び医療環境等のもとで記載しており、将来的な約束をするものではありません。また、あくまでも一般的な内容であり、個々のケースや保険会社各社様によって基準は異なることをご承知おきください。2020年9月
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