POEMS症候群(polyneuropathy, olganomegaly, endocrinopathy, M-protein, skin change; POEMS)、別名クロウ・深瀬症候群とは、骨髄中の形質細胞の増殖異常によっておこる病気です。骨髄腫類縁疾患の1つです。
POEMS症候群のPOEMSは、以下の傷病・症候名の頭文字をつなげたものです。
Polyneuropathy(多発性末梢神経障害)
Olganomegaly(臓器腫大)
Endocrinopathy(内分泌障害)
M-protein(M蛋白)
Skin change(皮膚変化)
本症候群患者血清中の血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor; VEGF)が異常高値となっています。このことが報告されて以来、VEGFが多彩な症状を惹起していることが推定されています。すなわち、本症候群は、形質細胞単クローン性増殖が基礎に存在し、多発ニューロパチーを必須として、多彩な症状を併存する症候群です。
末梢神経障害による手や足先のしびれ感や脱力で約半数の患者が発症します。この症状の進行に伴い、皮膚の色素沈着や手足の浮腫が出現することがあります。一方、残り半数の患者では、胸水・腹水や浮腫、皮膚症状、男性では女性化乳房から発症します。
日本では340名の報告があり、全生存期間中央値14.7年で、心不全と感染症を原因として死亡します。詳しくは、全身性浮腫による心不全、心膜液貯留による心タンポナーデ、胸水による呼吸不善、感染、血管内凝固症候群、血栓塞栓症などが死因となります。
骨髄における形質細胞の異常増殖があるため、いわゆる白血病に類似した症状が現れそうですが、実際は末梢神経障害やM蛋白が問題となっていることから、形質細胞が産生する抗体とVEGFが主に臓器障害を起こしているようです。血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管新生を促す糖タンパク質のサイトカインです。 VEGFが血管内皮細胞に作用すると、細胞の分裂や遊走、分化などを誘導します。その結果、既存血管から枝分かれした新たな血管が形成されます。これを血管新生と呼びます。乳癌、肺癌、大腸癌などの固形腫瘍では組織中のVEGFが高発現するものがあり、予後不良です。
診断基準は次のとおりです。
下記の大基準3項を満たしかつ小基準を1項目以上満たすと確定診断とされる。ただし、多発性骨髄腫の診断基準に合致するものは除外する。
大基準
・多発ニューロパチー
・血清VEGF上昇(1000 pg/mL以上)
・M蛋白(血清または尿中)
小基準
・骨硬化性病変
・キャッスルマン病
・臓器腫大
・浮腫
・胸水
・腹水
・心嚢水
・内分泌異常(副腎、甲状腺、下垂体、性腺、副甲状腺、膵臓機能)
・皮膚異常(色素沈着、剛毛、血管腫、チアノーゼ、爪床蒼白)
・乳頭浮腫
・血小板増多
※ただし、甲状腺機能異常、膵臓機能異常については有病率が高いため単独の異常では小基準の1項目として採用しない。
POEMS症候群の治療は、形質細胞腫とそれに伴う高VEGF血症が治療の標的となります。形質細胞腫に対する治療としてメルファランが使用されます。メルファランは、がん治療に使用される医薬品の一つで、特に多発性骨髄腫などの血液がんや固形腫瘍の治療に使用されます。抗多発性骨髄腫剤であるメルファランは、アルキル化剤という抗がん剤の一種で、がん細胞の増殖を抑制し、体内の異常な細胞を減少させるのに役立ちます。
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